:: 旅321日め : 世界旅58ヶ国め : 和人214ヶ国め : あづさ79ヶ国め ::
■天理教会の皆さんとのお別れ
昨日、私たちはアンゴラ大使館へ行きましたが、ビザ申請ができませんでした。そうなるとブラザビルでのBrazzaville滞在目的はもうなくなり、次の国ガボンへ向けて移動することになります。
この5日間、天理教会の境内の中では、みんなが優しくしてくれました。コンゴ人よしえさん、日本から短期出張で来ている日本人おじさん、そして、地元の人たち。特にここは17年前に和人の命を17年前に救ってくれた場所でもあり、それも含めて、本当に感謝し尽くせないほどの有り難味があります。
お別れは辛いはずなのに、実際は「ではまたいつか会いましょう」という気分と共にお別れしたように思います。この優しいブラザビルの人々には、なんだか不思議と、また会えるような気がしたからだと思います。
■強盗列車の旅
ここコンゴ共和に対する外務省の渡航情報として、「反政府勢力であるニンジャ兵の武装解除が進まず、武器を隠匿所持している者が多数いる」「反政府勢力が列車の運行を妨げたり、列車の乗客に対し強盗行為を働いたりする」という記述があります。確かに、この列車は、度重なる強盗強奪により、運行停止も繰り返してきました。
しかしドリジーに行くのに、現実的にはこの列車しか移動手段がないのも事実です。私たちは、地元コンゴ人に聞いて回り、今は列車で問題なく移動できるというアドバイスを考慮した上で、この列車に乗車しました。
座席はやや広めの2人席が向かい合い、4人でコンパートメントになるタイプです。1等車と2等車がありますが、私たちが乗ったのは2等車です。カメルーンの列車よりも乗り心地は良いと思いました。
列車は、コンゴのジャングル地帯を進んでいきます。車窓からは、ダイナミックなジャングルらしき植物が生い茂る、青々とした一面の緑が広がります。
出発してどのくらい時間が経ったでしょう、列車は最初の停車駅に到着しました。そして出発のとき・・・
「バン」「バーン」・・・銃撃の音がしました。
やだな、コワイ。
そのとき、民間人にも武器が流通している怖さを、少し実感しました。私たちは駅で誰かが発砲する瞬間を見ていました。男が2人、機関銃を持って、発砲する姿を。
昼11時、今度は列車が一面の緑の中を走っているとき、またもや銃声がしました。
出た・・・ニンジャ兵・・・。
「ニンジャ」とは、日本の忍者が語源なのでしょうけれど、現地コンゴ人も使う言葉です。残敗兵など、武器を持って民間に潜み、強盗を働く者を指します。ここコンゴ共和では、かつてより何度もこの列車がニンジャの標的になり、襲われています。
今日ニンジャが出たのは、一面の緑が広がる、草木と森の中から・・・。きっと彼らの住まいは広い森のどこか。そして今私たちがいる列車を獲物とし、森から現れたニンジャ・・・。
「ザッ、ザッ、ザッ」・・・窓のすぐ外は草ぼうぼうなのに、草を踏みながらニンジャが往来しています。
怖かった。それまでうるさいほどお喋りで賑わっていたコンゴ人乗客も、一斉に静まり返りました。そのときは、あづさが窓側、和人が通路側に座っていました。
「ザッ、ザッ、ザッ」・・・列車内兵士(セキュリティー)も銃を持って往来しています。列車内兵士は私たちも姿格好は見覚えがありますが、まったく見覚えのない、平服の男たちが銃を持って歩いているのは、ニンジャなのでしょうか。
窓側に座っているあづさは、すぐ外で「ザッ、ザッ、ザッ」という足音が聞こえるのが、とても怖かった。だって、もし目が合ったら・・・明らかに外国人である私たちがニンジャに見つかったら、すぐさま強盗の対象となってしまうでしょう。
「ダダダダダダ」・・・天井から音がします。列車を包囲したニンジャが、停車している列車の屋根の上を走る音。
「もうすぐやられてしまうのか」・・・そればかり考えていた50分に亘る列車の停止時間は、ものすごく長く感じられました。私たちは長い列車の最後尾車両にいたのですが、前方でニンジャが集まる音がしていました。私たちよりも良い車両にいる一等車の乗客がやられた、もしくはお金で解決させた模様です。
列車が再び動き出してからも、再停車することもあり、なんとも落ち着かない気持ち。
途中止まった駅で、窓から列車ホームを眺めていると、そこは恐ろしいブラックアフリカのブラックな世界でした。ドレッドヘアの黒人軍人が機関銃を持ち、私服の人々 -おそらくは民間人- も機関銃を持っています。破れた衣類、黒い肌、多数の銃、汚れた風景、周りはジャングル・・・。
「明るい時間なのに暗い光景」を見て、身の毛がよだつ思いをしたあづさは、「アフリカらしいアフリカに来た・・・」と、この旅で最も強く思いました。真のブラックアフリカと言わんばかりの恐怖感あるおどろおどろしい光景に、身を引き締める思いでいました。
数時間後、列車は別の駅に停車しました。夕方6時過ぎで、停車中に日没を迎えました。そして暗くなってきた頃・・・座席の通路側に座っていた和人が金を出せといきなり殴られたのです。その男は和人に刃渡り30cmものナイフを突きつけ15000セーファーフランを要求してきましたが、和人はその要求を当然呑みません。強盗男は次にあづさにナイフを突きつけました。当然お金の要求と共にです。周りの乗客は誰も助けてくれません。私たちは、男の出方を見ながら、まだ大丈夫と判断する間は要求を拒み続けました。大事な荷物は -その男は必死に奪おうとしたけれど- 決して力を抜かず抱き続けました。
・・・今思うと、命を守るにはかなりギリギリの線だったと思います。“まだ大丈夫”と見極め、男の刃物が首に触れている間も屈しなかったけれど、断ったら何をされるか分からない・・・。相手は尋常ではない強盗男。
通路側に座っていた和人が、知らずに通りかかった人をこの強盗との間に無理やり引っ張り“盾”にしました。やがて銃を持つ列車内兵士(セキュリティー)が通りがかってくれたので、何とか助かりました。
兵士はその男を私たちに突きつけ、「こいつか?」と確認します。
黒人なんてみんな同じように見えるのですが、ズボンのベルト(だらしない結び方)を覚えていたあづさが、「ウイウイ(Oui,oui、Yes,yesのこと)」と返答しました。
次の瞬間から、強盗は兵士に成敗されていきます。銃で殴られ、蹴られの連打で、車内には「ガッ」「ゴツッ」と痛そうな殴る蹴るの音と、「ギャー」「ギャー」という男の悲鳴が続きます。そして裸にされ、だらしなかったベルトで両腕を背中側で縛られ、裸のまま次の停車駅で降ろされたのでした。・・・なんだか、成敗の仕方もブラックアフリカ・・・。
その後、セキュリティーの1人は私たちに「ヌーヌソンイシ」(Nous nous sommes ici、僕たちがここにいるからね)と、低い目線から優しく声をかけてくれました。この列車にも頼れる人がいるのだと、やっと安堵を覚えました。
ここコンゴ共和は、17年前和人が強盗にやられたところでもあります。あづさだって、和人に2度もコンゴで旅が終わるなんて思いをさせるのは絶対に嫌です。
列車がドリジーに着く深夜1時半まで、本当に長かった・・・。いろんな嫌なことを考えてしまいました。今日1日で、列車ごと襲われる強盗と、自分の首に刃を当てられる強盗と、2度も襲われたことに、これからの旅の行く先を考えずにはいられなかったのです。
最後になりますが、写真は、車窓から決死の思いで撮った、ニンジャがいるコンゴの森。
時に彼らは森から現れ、獲物から金品を奪ったらまた森へ帰りゆく・・・
その森には、どれだけの武器が、眠っているのだろう。
本日の旅
行動 :ブラザビルからドリジーへ移動、ニンジャ兵に列車ごと襲われる、強盗に襲われる
朝食 :バゲット、チキンハム、チーズ、ノノソルベ(ヨーグルトシャーベット)/ドリジー行き列車の中
昼食 :ヤカ(葉に巻かれたマニオクのもち状のもの)、プレ(鶏の煮付け)、ババディーン(パッションフルーツ)、ミンゲンギー(キンカン)アボカド/ドリジー行き列車の中
夕食 :チョコビスケット/ドリジー行き列車の中
宿泊 :ボロコさんち
旅情報
1セーファーフラン=0.25円
*ブラザビルからドリジーへの移動
ブラザビル発ポイントノワール行き列車に乗り、途中下車。ドリジーからはガボン方面へのトランスポートが出ている。
ブラザビル-ドリジー:1等車14840セーファーフラン、2等車9065セーファーフラン。
チケットは前日の朝6時45分から駅で購入できる。
毎週水・日の朝9時出発。ドリジーには12時間ほどで着くらしいが、いつも到着が遅れるらしい。私たちは16時間半かかった(つまり深夜2時前到着、泣)。