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伝統を保持した交易都市

アラブ首長国連邦

 サッカーのオリンピック予選が行われているUAEはアラビア湾に面した首長国の連邦である。私が旅行代理店で勤務していた八十年代には、入国ビザ取得に現地スポンサーが必要で、観光旅行なんて考えられない国だったが、十数年で大変身。今ではビザも不要で、旅行者に大人気の国となっている。
 中でもドバイはリゾートホテルが林立し、砂漠ツアーを始めとするオプショナルツアーも充実し、旅行者を集めている。
 しかし、集客力の根源はショッピング、どんなものでも品揃え豊富で安いと有名だ。近代的なショッピングセンターもたくさんあるが、アラブ世界の伝統であるスークは、果てしなく巨大で活気に満ちている。アラブ地域の人々だけでなく、アジアやアフリカ、欧州などから来た人々が大きな荷物を抱え行き来する様子は壮観だ。
 街を二つに分ける運河にはさまざまな船が行き交っている。運河の渡し舟であるアブラは頻発しているし、観光船もあるが、特に目を引くのは荷物を満載した木造帆船ダウである。首都アブダビの空港よりも大きな国際空港が市内にあり、また大型船舶用の港湾設備も充実している交易都市ドバイだが、まだまだこうした伝統的な船での貿易も盛んなのだ。
 このダウはアラビア湾岸はもちろん、遠くパキスタンや東アフリカにまで行き来している。木造帆船から人力で荷揚げをするのを見ていると昔の世界に迷い込んだかと一瞬思ってしまうほどだが、その向うには近代的なビルが見えている。
 この近代と伝統の絶妙なバランスが好きで、私はこのドバイが気に入ってしまった。


産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年3月4日分

エッセイ