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もう一つの分断国家

キプロス

 地中海の島国キプロスは、欧州各都市からのチャーター便が多数運行されているリゾートである。しかし、現実には南北二国家に分裂し、その平和は四十年間派遣の続く国連平和維持軍によって保たれている。
 このキプロスで入国拒否を受けた。一緒にいた日本人の名前がブラックリストにあるといわれたが、リストには生年月日はなく、ただ名前が羅列してあるだけ。しかもリストの名とは二文字も違っていたのに、別人という確証がないからダメだというのだ。観光収入に依存する国なのに、理不尽な理由である。
 この頃、南側政府につくギリシャと北側政府につくトルコの関係が悪化しており、他にも理由なく入国拒否された日本人の話をあとで何件も聞いた。南側での出来事で、パスポートにあったトルコ入国スタンプが問題だったのかもしれない。
 数年後、北側を訪れた。南側ほどの集客力はないが、こちらも立派なリゾートで、三千年以上の歴史を誇る港町ギルネは特に美しく、観光用ホテルやレストランが充実していた。ローマ時代の遺跡や中世の古城などの見所へも日帰りの訪問で楽しめる。電流の流れた鉄条網で仕切られた緩衝地帯が街の中心にある首都ニコシアでさえ、軍人の姿を見かけない。停戦ラインが見所の一つにさえなっており、紛争の影響は感じなかった。
 この分裂したキプロスが再統合へ向け基本合意、現在は最終の詰めを話し合っており、三月中に結論が出るという。南側のEU加盟に合わせた早急な統合なので、再び紛争が起きないかと不安も感じ、今は交渉の行方が気になる。平和になれば今度こそ南側を旅してみたいが…。


産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年3月18日分

エッセイ