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■素晴らしきグリーンランド、素晴らしきイヌイット村
グリーンランドは氷に覆われた国。「ISO 3166-1」で国コードがつけられており、デンマーク領ながら自治政府をもつ国です。一方でアイスランドは緑が豊富な国でしたね。本来なら名前が逆であるべきでしょうところ、かつてグリーンランドへの植民を促すために、氷の国に“緑豊かな名前”がつけられてしまいました。
グリーンランドは世界で一番大きな島です。そのほとんどが氷で覆われているため、先住民族としては、海岸沿い(氷が融けているあたり)にイヌイット(蔑称ですがエスキモーという言葉でイメージが沸く人もいるでしょうか)が、幾つかの集落を作ってきました。そしてヨーロッパからの移住や開拓が主に西部で進みました。
私たちが訪問するのは、かなり迷いましたが、西部ヨーロピアン地域ではなく、東部を選びました。こちらのほうがよりイヌイットらしさ、より本当のグリーンランドらしさを体感できると思ったから。その他就航便スケジュールや価格などの要素も含めての選択です。
レイキャビクReykjavikからは、国際線ではなく“国内線”ターミナルからグリーンランドへ行きます。その、上空からの風景に、「うわーすごいっ!」・・・もう、2人してハートを奪われましたね。無数の流氷が海面を覆い、大きな青い氷山も浮いています。遠くを見ると極北らしい険しい山と氷河の連続、「これはすごい!!」と、今まで見たこともないような、大規模の氷の世界に、本当に心を奪われていました。
ちなみにレイキャビクからグリーンランドへのフライトは自由席です。右に座れば険しい山と氷河をたくさん見られ、左に座ればイヌイット村を上空から眺められます。どっちがいい? どっちもいいよね、行く人は悩んでねー(^^*
クルスクKulusukに着きました。ちなみにここには、レイキャビクからのデイツアーで訪問する人が多いところ。でも私たちは、航空券をもつだけの、自由訪問です。空港から村への距離も、村に宿があるかどうかも、分かりません。一番不安なのは、食べ物が手に入るかどうか。
ともあれ空港を出て、人に村の方向を聞いたりしながら歩きました。先ほど上空から一面の氷を見ていたときは、「寒そう」と弱気になっていましたが、実際はそんな寒くありません。手袋なしでも歩けますし、さすがは夏のグリーンランドというところです。でも、氷山、氷河、一面の氷は、ありえないほど美しい。どんな風景も絵になってしまうからすごい!
空港と村の間にツーリスト向けホテルがあるのですが、その前で日本人グループに出会いました。中年の彼らはアイスランドツアーに申し込んで、オプショナルでグリーンランドも付けてもらったのだそうですが、「アイスランドを削ってグリーンランドを増やせばよかったわ!」とは異句同音。ついでに私たちも同意見。グリーンランドの、イヌイット村の良さや雄大な氷の光景を見てしまうと、正直、アイスランドは物足りないのでしょう。私たちも強くそう思っています。
空港から1時間弱ほど歩き、クルスクの村に着きました。んもう♪ これがまたすーっごく可愛い村なのよ♪
とんがり三角屋根は、豪雪地帯の証。でも壁は赤、緑、黄色など、色とりどりに塗られていて、可愛い。クルスクは小さな島で、どの家からも海がすぐそばです。その海がまた、無数の氷山を浮かべていて、本当に絶景なのです。早速、大絶景の見えるところにテントを張り、荷物を置きました。
人口350人の小さな村ですが、村には1軒のスーパーマーケットがありました。わくわくと覗いてみましたが、商品の陳列は規模が小さく、残念なことにほぼすべてがデンマークからの輸入品で、グリーンランドの「その土地の食」が・・・ない(T_T)
何も買わず、半ばがっかりしながら、それでも素敵な村をお散歩しました。
6月ですが雪も残る地面に、ぽつんぽつんと木造の家が建てられています。軒先には魚が干されています。「いいなー、あんなお魚食べたいなー」と、その土地の食への憧れを募らせながら歩いていました。
ちなみに、グリーンランドのイヌイットは、日本人ととっても良く似ています。肌の色、目の色、髪の色。人々の服装を加味すると昭和30年代の日本っていうイメージと重なります。
人々は「アロー」って挨拶をします。そして、英語の単語を知っている人が多いのです。後から聞いた話ですが、グリーンランド(クルスクのみならず)には米国人が住んでいた時期があり、それゆえ英語を知っている人が多いのだとか。みなさんカタコトですけど。
「フー、アー、ユーッ!」(あんたは誰じゃい)って、通りすがりのおじさんに笑顔で聞かれました(^^;;
おじさんは、「アイ、アム、イヌイット!」(わしはイヌイットじゃよ)と言います。続けて、イヌイットは英語で、イヌイット語では「イーウィー」と言うのだと教えてくれました。
さて、簡単に島の観光を終えて、再び村の中心地に戻ってきました。ともあれ今日食べるものを買わないといけないので、先ほどのスーパーマーケットに入りました。
そこで、あづさが出た、「この旅の大きな挑戦」。
だって、やっぱり、外からこの素晴らしい文化を見るだけじゃなく、その文化に入っていきたかった。
レジにいるおばさんと支払いをしている男性のところに行き、ダイレクトに尋ねました。
「私は日本から来たツーリストで、イーウィーのこと知りたいです。例えばイーウィーのごはんを食べたいのですが、どうしたらいいですか」、みたいに。
男性の回答は、「他の人に聞いてみて」。
・・・ま、そうですね。
ダメもとなので、そうですね。
・・・流石に強引なお願いだったかなとも思うのですが、湾曲表現(ちょい難しい英語)は通じませんし、超簡単な英語だけとなると、これで意思疎通は精一杯。
さあ、もうちょっとだけ食べるもの探して、外にでましょうか。そう思っていた頃、レジのおばさんが、たどたどしい英語とジェスチャーで、「ユー、カム、ホーム」(あなた、来る、家)って言ってくれたんです!!
「私の家においで」って!!
これが、とてつもなく偉大なグリーンランドの旅を作っていくことになるなんて・・・!
さっき、「フー、アー、ユーッ!」のおじちゃんが、「イーウィー」という言葉を教えてくれたのが、成功のカギかもしれない、本当おじちゃんありがとう!
■イヌイットの家族と過ごす体験
夜6時になりました。今はほぼ夏至の頃ですから、グリーンランドは明るい明るい! 迎えに来てくれた少年コリニウス君とライラちゃんのお迎えで、招いてくれたエルセママの家に行きました。
「あ、鮭汁の匂い」って、あづさは玄関に入るなり思いました。鮭ともマグロとも思える匂い。
食卓には、黒い骨付きの肉が、どーんと置かれていて、しかも10人くらい? 多分ご近所さんも集まって、みんなでそのお肉を美味しそうに食べているの! ゆで汁スープつきで。
エルセのだんなさん、ユシュトゥシュパパも本当に優しそうな人!
エルセが私たちの肉をお皿に乗せてくれました。ユシュトゥシュは「これはプイダ。英語でシール。」と言ってくれ、食べ方を教えてくれました。「シール!!!」・・・なんだか、よそ者の私たちが一気にイヌイットの世界に入ったと思った!! だってアザラシですよ、たっぷり煮込んで、みんなで肉を分け合って食べているのです!!
彼らは、大きな骨付き塊肉を前に、片手でナイフを持ち、もう片手は素手で肉を食べていきます。その姿にも、すごい感動を覚えましたね。だってね、原始的なイヌイットは、食べるものがアザラシと魚介と、ごく少しの植物しかなかったはず。何世代も、命をアザラシに支えられてきたのです。火を使う文化がなかった頃から、アザラシを刃物で切り、手で肉をつかんで食べてきた・・・だから、デンマーク領になってフォークやナイフが手に入っても、彼らはフォークを使わず、片手は素手でアザラシを食べるのです。
なんだか、イヌイットが、イヌイットの伝統を捨てていないんだと、イヌイットの伝統を受け継いでいるんだと思ったら、ぶわーって、大きな感動が心に沸いてきちゃう。なんだか泣けてきそうなくらいの感動の大きさです。
アザラシの肉は、マグロの血合いを加熱した味がします。日本でなら例えばネギマ鍋とかで加熱したマグロを食べると思うんだけど、魚肉には薄茶っぽい部分と、色の濃い部分とありますよね、その後者の味です。牛肉の噛みごたえもあり、牛肉ステーキの味もします。玉ねぎとお米と一緒に煮込まれていて、味はかなり汁に出ているけれど、肉にかなり美味しさが残されています。「旨み旨み旨みの嵐」です。
ちなみに、肉の部分はイヌイット語で「ニャカ」。ゆで汁は「スワシャ」。そのスワシャ(ゆで汁)も驚きの味です。汁は濃い濁った茶色で、八丁味噌のお味噌汁から上澄みを除いた部分に似ています(似ていないかも)。玉ねぎとお米はとろとろとやわらかい具になっていて、味付けは塩こしょうのみのようです。その、鮭ともマグロともつかない、はたまたビーフジャーキーを思い出す濃厚な獣の味がして、私たちはすぐ、ニャカ(肉)もスワシャ(煮汁スープ)もおかわりしました!
ちなみに、今日は、親戚が高校を卒業したお祝いで、それゆえアザラシを使ったごちそうを作ったんですって。私たちは本当に幸運ですね! 私たちは、プイダ(アザラシ)が美味しくて美味しくて、ママがどんどんおかわりをくれるから喜んでいっぱい食べました♪ ちなみに、ご近所さんたちは、ぷらりとやってきて、特に濃厚な会話をするわけでもなく、プイダ(アザラシ)をそつなく食べては帰っていきます。こういう、「かしこまらない近所づきあい」も、イヌイットの特徴なのでしょうね。そもそも玄関には鍵がかかっていませんし。
また、誰かが小銭を台所の床に撒き、そこにいた子供も大人も全員が「小銭拾い」を始め、あっという間に終了。これはイヌイットに伝わる、お祝いの行事でしょう。日本の節分を思い出します。撒いたものを拾うあたりがね。
さて、イヌイット人のお宅はどんな感じか、書いておきましょう。
先ほども書きましたが、豪雪地帯ゆえ、屋根はかなり傾斜をきつく作っています。とんがり三角屋根です。たいていは2階建ての木造住宅で、訪れたエルセおばさんちは、1階はトイレ、キッチンダイニング、リビング、あとは2階に部屋があるようです。
リビングにはテレビもゲームも、ソファとローテーブルもありますし、壁は一面に飾りつけでいっぱいです。燃料を炊くストーブもありますが、家には電気も供給されています。このあたりは、グリーンランド政府またはデンマーク政府のインフラ整備が形になっているのだと思います。
でも、水道はありません。湖から水を汲んできて、生活用水にしています。この水は飲むにしても極めて美味で、感動しました。極寒の地域ですから、全住宅に水道を供給するのは難しいのでしょうね(寒い地域で水を使うと夜間に水道管が破裂します)。
さて、一緒にプイダ(アザラシ)を食べていた、ユリアおばさんとそのだんなさんのプチュおじさんが、「このあとうちにおいで」と誘ってくれました! いやー、夜9時だってまるで昼間のようなグリーンランド(^^;; 時間が経っている感覚がないものですね。
で、ユリアおばさんちへ。プチュおじさんは、「これはダニッシュ(デンマーク料理)だよ」って、マッシュポテトとホワイトシチューを出してくれました。グリーンランドの物資はかなりホスト国のデンマークに依存していて、もともと原始的な暮らしを続けてきたイヌイットにとっては、西洋の文化は「デンマーク」ということなんでしょうね。昔の日本みたい? 外国人はアメリカ人って子供が発想する時代、あったよね! ともあれこのとき、「イヌイットでも普段からデンマーク料理(西洋の料理)を取り入れている」ということが分かりました。
興味深いのは、皆の遊び方です。遊び道具が豊富ではないので、子供たちはよく「指遊び」をやっています。10指を使って面白い形を次々と作ってくれます。「音遊び」もやっています。頭を両手で押しながら口の中のキャンディーを「ゴリッ、ボキッ」と砕いて、まるで頭蓋骨が砕けるような音を出してうぎゃーという顔をするの(笑) 小さな女の子は「色遊び」が好き。何かの本(フルカラーの通販カタログなど)を見て、ここの色とこの色が同じって、神経衰弱みたいに対応を探していきます。
この家庭ではありませんが、外を散策していたときは、女の子も男の子も、サッカーをよくやっていました。起伏が多いため平らで広いところがないので、小さなスペースで、坂があるようなところでもサッカーをやっているんですよ。
さて大人の遊びはというと、まずは「ぼーっと見る」。村には道路沿いにベンチがあり、大人はそこに座ってぼーっと、道行く人を眺めています。
そして、今いるユリアおばさんんちで繰り広げられたのは、「トランプ遊び」。これは、明日、他のイヌイット村からやってきたおばさんもエキサイトしていたので、イヌイットの一番の遊びだと思う!
今回イヌイットの家庭に滞在した限りでは、多分3種類くらいのゲームしかありませんが、大人も子供も、ひたすら同じ遊びでエキサイトするのですね。飽きずに、ずっと、ずっと、同じ対戦をし続けるのです。日本と違うなと思った点は、トランプゲームが「負け抜け方式」であることです。日本だと「勝ち抜け」って言葉があって、勝った人からあがっていくから、実は強い人ほどトランプ楽しむ時間が短いんですよね。でもイヌイット村では負け抜け方式ですから、強い人は延々とゲームに熱中し続けられます。
皆、夜遅くまで、ずっとずっとトランプをしていました。夏のグリーンランドは日が長い。それをこうして延々とトランプで楽しんでいるんだということが、よーく分かりました。
さて、今日の日記は長くなりました。あまりに、ありえない体験が次々と目の前に現れてきて、本当に濃い1日だったんです。
だって、イヌイット(エスキモー)の、家に入って、笑顔で、みんなと交流するの。
アザラシの家庭料理だって、他ではどんなに大金積んだって食べられるものじゃない。
お金で買えない体験ばかりが、私たちを本当に感激させてくれました。
「今日うちに泊まっていきなよ、2階の部屋が空いているから」と、プチュおじさんが誘ってくれましたが、私たちは今日はお断りしました。
「明日来るから、今日はキャンプで泊まるから」と伝えました。
夜、2人きりにもどって、素晴らしい素晴らしい至福の眺めを始終見られる場所に張ったテントにて過ごしました。和人にとっても印象的な体験だったのでしょう、「今日は本当にあづさに感謝してるよ」って言ってもらえました。えへへ、嬉しいな。
夜12時? 1時? やっと、空は夕焼けのような色を帯びてきました。でも3時になると朝焼けの色は消え、明るくなります。目をつむると次々と浮かんできて仕方ない、イヌイット暮らし体験。目を開けると白い氷河に青い氷山の群れ。耳には氷山同士がぶつかる音。
グリーンランド、イヌイット村・・・本当に、本当に、すごいところです。
本日の旅
行動 :レイキャビクからクルスクへ移動、アイスランド出国、グリーンランド入国、クルスク観光、イヌイット家庭体験
朝食 :シナモンコーヒー、パン、Kaviar(カビア、いわゆるキャビア)、Luxus sild(ルクススシルト、魚の酢漬けのマヨネーズ仕立て)/BSIバスターミナル
昼食 :ハムチーズ入りクロワッサン、コーラ、チョコレート、チーズスプレッド、コーヒー、オレンジジュース、セサミクッキー、カフェオレ/機内
夕食 :プイダニャカ(アザラシのゆで肉)、プイダスワシャ(玉ねぎと米入りアザラシのゆで汁)、紅茶/エルセママの家、カチャプレムーシュ(マッシュポテト)、ケルウェフェカジェ(野菜と肉入りホワイトシチュー)/プトゥおじさんち
宿泊 :氷山が流れる海峡の目の前
旅情報
1アイスランドクローナ=0.78円
1デンマーククローネ=18.2円
*レイキャビクの国内線
市内BSIバスターミナルの少し南に国内線空港がある。2ヶ所に分かれているので、行く時は事前にどちらなのかを確認すること。グリーンランド行きフライトは西側の国内線ターミナル。市バスで行ける。