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■薔薇色トレッキング
「ああ、いつ思い出しても、この日の旅は最高だった・・・。」それがペトラの旅の本音です。
「ペトラの洞窟」で2人きりで目覚めた朝。洞窟の床(岩盤)は冷たく、身体は冷え切っていました。ここは昨夜車で連れてこられた場所であり、周囲の様子はまったく分かりません。でも明るくなって改めて洞窟の周りを見渡し、その素晴らしい景色 -奇岩の連続- に非常に感動しました。奇岩の1つをくりぬいた2000年の歴史あるペトラの洞窟にいるなんてすごい!! と遅れて気づく朝でした。
洞窟の前の道を渡った先には、隆起地形が少しくぼんだところが見えています。あづさが普通に風景写真を撮っているとき、和人はそこからペトラ遺跡に向かえると言いました。直感? 以前見ていたグーグルアースで地形を知っていたから? ともあれ、後に会話するときも、和人は「だってどう見てもペトラが呼んでいたんだもの」って言います。
その直感の道を歩いていくことにしましょう。両脇を岩山に挟まれた、ワディ(枯れ川)のようなところです。何故ってペトラが呼んでいるからね。やがて伝統的なベドウィンのテントが視界に入ってきて・・・広い大地、青い空、ゴツゴツした岩山、伝統的な暮らしのテントにラクダたち・・・、ベドウィンが息づいてきた「本当のペトラ」はここにあった! とばかりの光景に、心拍数が上がります。観光地ペトラなんて上塗りの姿なのだとさえ思うほどです。
(※事実、ペトラ遺跡に居住していたベドウィンは観光客の届かない所に強制移住させられています)
おや、ベドウィンのおねーちゃんが私たちのほうにやってくるわ。・・・あれれ? 目が合ったのに私たちに何も言わず、ラクダの世話をしているだけ。私たちはそのまま進み、ベドウィンの畑を横切り、ワディを越え、崖を降り、2人っきりのトレッキングは続きます。時折、大きな岩の上にはヤギをシメた大量の鮮血もあり、彼らの暮らしを垣間見れたようでした。
大きな崖を慎重に降りるときが来ました。「ああこれで、もう来た道は戻れない」と、不思議なペトラの世界に彷徨い(さまよい)こんだことの覚悟が固まってきました。
「何がなんでも、生きて脱出しなければ。遭難だけは絶対に避けなければ!」と。
そもそも、今日の出発点でさえ位置不明。方位磁針をもっていたって現在地は分かりません。それでも、呼吸を整えながら険しい岩の大地を眺めていると、「多分、こっちだよね」とペトラ遺跡の方向が分かる気がします。木のあまり生えない大地は、下も岩、右も左も岩、トレッキングとしても最高の大地です。
でも・・・! でも・・・!! あるとき急に、下も右も左も、岩という岩が、薔薇色に変わったのです!!!
麗しいピンク色、まるで夢の世界に、「こんな風景見たことない!!」と、我をしばしば忘れました。薔薇色の岩の上を歩き、薔薇色の崖に挟まれ、しかもその薔薇色は何層ものピンク色が堆積した、薔薇のマーブル。
美しい。
そこは昔からペトラの人々の通る道なのだと思います。大きな岩には、岩を削って階段が作られていたり、時に雨避けまたは住居跡と思われる岩のくりぬきもみられました。
それは、何百年、何千年前のものなのかしら、その頃人々は、どんな衣類を着て、どんな動物と共に暮らし、どんな家庭を作っていたのかしら・・・。ペトラ遺跡は遊牧民族ナバタイ人の作った都とされていますが、素晴らしい風景を見ていると、ナバタイ人について詳しく思い出そうとするよりも、今見ているものから昔を想像するほうが、楽しいの。
ここへの誘いを拵えてくれたのは、昨日出会ったベドウィンのおじさんたち。
旅での出会いは、大きな感動を、作ってくれる・・・。
薔薇色トレッキングは続きます。
不思議な光景は時間感覚をも狂わせるのか、どのくらい歩いたかなんて一切思い出せません。
でもピンク色の世界から現実へ、やがて、遠くに巨柱が見えてきました。「観光地のペトラ遺跡」の中央にある柱でしょう。よく見ると、観光客らしき人が数人、柱の周辺を歩いているのも見えます。
夢の世界、薔薇色トレッキングは、そこでおしまい。
「観光地の」ペトラ遺跡に入ると、岩は茶色を増し、ピンクが薄れました。その色褪せ方は、夢が覚めるのと似ていました。少しずつ夢は現実へと覚め往き、いつしか私たちは観光客の渦に呑まれていたのでした。
その日やったことと言えば、あとは普通の観光客と同じです。めぼしい遺跡を見て歩き、1時間の登山より岩をくりぬいた修道院へと歩き、出口へと向かうだけ。ペトラ遺跡といえば、ヨルダン随一の観光地どころか世界有数の有名観光地であるにもかかわらず、昨夜のペトラの洞窟での寝泊まりから始まった夢の世界があまりに良すぎてしまい、肝心の観光地部分は印象が薄くなってしまいました。
通常、入口から入り、小道を通って進むと、崖と崖の間の細い隙間から「エルハズネ」と呼ばれる大きな宝物殿が見える瞬間が見どころとされています。あづさはもちろんその瞬間をペトラの醍醐味だと思っていたのに、来た道が違ったため、エルハズネとは、横方向から感動薄くご対面。
でもね、エルハズネを去るとき、崖と崖の間の隙間道からふと振り返ったとき・・・見えたんです、あの憧れていたエルハズネとの対面が抱いていた絵の通りに見えたんです。正直感動の薄かったペトラ内部の観光でしたが、最後、去るときにもう一度感動を味わえて、思い残す事がなくなりました。
さて、今日の旅は如何だったでしょうか。
「どんな小さなハイキング的な山であっても、登る人自身が登り終えた後も深く心に残る登山がほんとうだと思う。」・・・これは冒険家、植村直已氏の残した言葉です。
だから・・・、
ベドウィンの暮らした洞窟に彷徨いこみ、
美しい薔薇色の世界を2人で歩いたことは、
今も深く深く心に残る・・・
だから、今日の旅は、まごうかたなき「ほんとうの旅」。
私は幸せですね。
本日の旅
行動 :薔薇色トレッキング、ペトラ観光
朝食 :コーヒー、紅茶、ホブス(アラブの薄パン)、ホムス(ヒヨコマメとタヒーニ(ゴマペースト)にレモンやにんにくを混ぜたペースト)、フール(煮豆)、きゅうり、トマト/崖の上で欧米人アドベンチャーツアーの朝食時に出会っておすそわけをもらった
昼食 :ホブズ、ツナ缶、紅茶、干しイチジク/ペトラ遺跡のエドディル修道院が見える洞穴の中
夕食 :ナス玉ねぎ揚げ煮、ホブス、レモンティー、ラディッシュサラダ/宿
宿泊 :ベニシアホテルVenisia Hotel
旅情報
1ディナール=143.5円
*ペトラからアンマンへ戻る
ペトラ遺跡の前を16時台に出る直行のジェットバスに乗ればワディムーサへ戻らずにアンマンへ行けるが、1人6.5ディナールと料金お高め。ペトラからワディムーサまで徒歩20~30分、そこからマイクロバスに乗ると2.5ディナール(ただしぼったくってくるので値引き交渉必要)でアンマンまで帰れる。マイクロバスは16時くらいまでしかなく、それを過ぎるとミニバスで5ディナール(要値引き交渉)でアンマンへ戻ることになる。