旅の予防接種


旅では、種類を選んで予防接種をします。

以下は調べたもののまとめです。お役に立てれば幸いです。
重要なものは大きな黒字で紹介しました。
青や紫の小さな字は参考程度、というか、勉強用と現地活用のためのもの。

感染症と予防接種

 黄 熱 病 
世界旅必須度:★★★★★(独自評価)
主な感染リスク地域:アフリカ、南米 →参考:図1図2
接種回数:1回接種のみ
有効性:接種により90%以上の確率で抗体(中和抗体)が産生される。
有効期間:免疫自体は接種後30年~生涯有効だが、予防接種証明書は接種後10日目~接種10年間後の期間しか効力がない。
ワクチンタイプ:生ワクチン
他のワクチンとの関連:接種後原則27日以上の投与間隔をあけないと他のワクチンの接種ができない。
注意点:黄熱ワクチン接種後3週間以内にコレラワクチンを接種すると、共に抗体産生能が低下する。
接種場所:検疫所のみ、病院・診療所では行っていない(イエローカード発行権限の関係で)。

【関連情報】
 英名Yellow Fever。感染病原体は黄熱ウイルス(yellow fever virus;トガウイルス科フラビウイルス属)。
 発症後は5割近くが死に至るともいわれる致死率の高い病気。アフリカや南米での感染リスクが高く、これらの渡航及び出入国に際して予防接種証明書(イエローカード)を要求される場合がある。ヒトやサルなど高等脊椎動物に感染するが、これら動物間の直接感染はなく、蚊(ネッタイシマカ;Aedes aegypti)が媒介する。潜伏期は通常1週間以内で、初期症状は頭痛や発熱、悪心・嘔吐、目の充血等。感冒(カゼ)に似ているが鼻カタル(鼻水)はない。進行例では高熱、徐脈、黄疸、出血、蛋白尿など。検査所見は、顆粒球減少、血小板減少、プロトロンビン時間延長、部分トロンボプラスチン時間延長等。有効な治療方法はなく対症療法のみしかないため、ワクチンの有効性は極めて高い。予防接種は17D黄熱ウイルス株弱毒生ワクチン0.5mL皮下注射により行われる。予防接種の副作用は軽度で、頭痛、筋肉痛、倦怠感などが10~30%程度でみられる程度だが、1歳未満の小児や高齢者では重篤な副作用発症の頻度が高くなる。またこのワクチンは鶏卵で継代されるため卵アレルギーの素因をもつものは避ける。
 国際検疫感染症、検疫感染症(検疫法)、4類感染症(新感染症法)で規制。



 A 型 肝 炎 
世界旅必須度:★★★★☆(独自評価)
主な感染リスク地域:アフリカ、南米、アジア →参考:
接種回数:0、2~4週後に2回目、初回接種24週後以降に3回目
   →参考:添付文書
(3回目は海外渡航先で接種することも多い。海外では全2回で終了するワクチン(HAVRIX、VAQYA)もある)
有効性:5年間
有効期間:抗体獲得率はほぼ100%
ワクチンタイプ:不活化ワクチン
他のワクチンとの関連:生ワクチン接種から原則27日以上、他の不活化ワクチン接種から原則6日以上の投与間隔をあける
接種場所:病院、診療所、検疫所等
注意点:接種対象年齢16歳以上

【関連情報】
 英名Hepatitis A。感染病原体はA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus;HAV;ピコルナウイルス科ヘパトウイルス属)。
 糞口感染、すなわちウイルス保有者の糞に含まれるA型肝炎ウイルスが経口的に人体に摂取されることで発症する。原因としては川やプール、貝類や生野菜、飲用水など様々であり、A型肝炎ウイルスは寒冷で死活しないため、冷凍食品が感染源になることもある。途上国旅行者の感染リスクは1ヶ月あたり0.3%と言われ、1年旅をすれば3.5%(30人に1人感染)という計算になる。潜伏期は2週間~2ヶ月間と幅がある。発症前兆として軽度黄疸や暗色尿が出ることがある。発症するときの初発症状は感冒様で、発熱、全身倦怠感、食欲不振、黄疸など。重症例でも慢性化や劇症化することは稀で致死的予後をたどることは少ないが、特異的療法がないことゆえ、安静と食事療法(禁酒等)を基本とする。2ヶ月も安静にすれば多くの例で回復する。検査所見は血清トランスアミナーゼ(AST(別名GOT)、ALT(別名GPT))や血清ビリルビン上昇、チモール混濁試験陽性、IgM型HAV抗体陽性。なおA型肝炎ウイルスは85℃1分間の加熱により不活化するので、加熱してあるものを食べることで感染をかなり回避できる。うがい手洗いは言うまでもない。
 A型肝炎ウイルスはB型肝炎と違いキャリア化することはないため、A型肝炎感染者が完治すれば感染源としてA型肝炎ウイルスを保有し続けることはない(またこういう場合感染者は終生免疫を獲得している)。ワクチンは比較的新しいため有効性や安全性のデータ蓄積がやや少ないため注意が必要。また、中高年以上の者は戦後の不衛生な時期に育つことにより不顕性感染を受け抗体を保有していることが多く、ワクチン接種は不要であることが多い。妊婦のワクチンは比較的推奨される。
 なお、ワクチン(抗原投与→抗体産生惹起)とは異なり、抗体投与により免疫をつける方法もあるが(昔は専らこれ)、これは効果が3ヶ月程度しか持続しない。
 4類感染症(新感染症法)で規制。



 B 型 肝 炎 
世界旅必須度:★★★★☆(独自評価)
主な感染リスク地域:アジア、アフリカ →参考:
接種回数:4週間隔で2回、更に、20~24週を経過した後に1回の計3回。HBs抗体が獲得されていない場合には追加注射する。
   →参考:添付文書
有効性:96.3%が接種による免疫獲得成功(HBs抗体陽性化)。
有効期間:接種後数年~10年間。
ワクチンタイプ:遺伝子組換えHBs抗原→不活化ワクチンに準じた投与間隔調整を行う。
他のワクチンとの関連:生ワクチン接種から原則27日以上、他の不活化ワクチン接種から原則6日以上の投与間隔をあける
接種場所:病院、診療所等。検疫所では行っていない。

【関連情報】
 英名Hepatitis B。感染病原体はB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV;ピコルナウイルス科ヘパドナウイルス属)。
 感染ルートは出産に伴う母子感染、注射針や医療器具、輸血による感染、性行為による感染などがある。成人が感染した場合キャリア化(長期ウイルス保有化)するのは稀であり、急性の肝障害(黄疸、食欲不振、倦怠感等)を経て治癒するが、症状の出ない不顕性感染もある。しかしB型肝炎はウイルス性肝炎の中で最も劇症化しやすく(1~2%)、劇症肝炎への移行が問題になるため、発症したら抗ウイルス薬などによる治療を積極的に行う。検査所見はトランスアミナーゼ等のほか、NAT(核酸増幅検査)、HBV-DNA検出、血中マーカー(HBs抗原、HBe抗原等)。
 5類感染症(新感染症法)で規制。



 破 傷 風 
世界旅必須度:★★★★☆(独自評価)
主な感染リスク地域:全世界(特にアフリカ、アジア) →参考:
接種回数
(A)一度も予防接種をしていない者:3~8週間の間隔で2回投与→2回目から6ヶ月以上後(標準的には12~18ヶ月後の間)に追加投与。計3回。
(B)予防接種をしており最終予防接種から10年が経過した者:1回の追加接種のみ(ブースター投与)。
(C)予防接種をしており最終予防接種から10年が経過しない者:追加接種は不要。
   →参考:添付文書
有効性:成人・高齢者の87%に有効量の抗毒素が産生された。
有効期間:数年間有効。数年ごとに追加免疫を行う。
ワクチンタイプ:トキソイド(毒素のホルマリン無毒化体)→不活化ワクチンに準じた投与間隔調整を行う。
他のワクチンとの関連:生ワクチン接種から原則27日以上、他の不活化ワクチン接種から原則6日以上の投与間隔をあける
接種場所:病院、診療所、検疫所
注意点:自分が(A)~(C)のどれに該当するかを確認する。母子手帳を見れば過去の予防接種の有無が分かるはず。以下破傷風ワクチンの歴史も参照。

 【めやす】
 昭和39年以前出生=大方A
 昭和43年以前出生=大方AだがBの可能性がある
 昭和44~49年出生=多分BだがAの可能性がある
 昭和50年~55年出生=Aの可能性がやや高いが、そうでなければ多分B
 昭和55年以降出生かつ現在22歳以上=多分B
 現在22歳以下=多分C
【破傷風ワクチンの歴史】
昭和39年:DPT三種混合ワクチンの使用が一部で始まる。(T=破傷風)
昭和43年:予防接種法によるDPT三種混合ワクチン開始。乳幼児期接種。ただし百日咳ワクチン(=P)の副作用が問題になっていた。
昭和50年:百日咳ワクチンを含むワクチン類の一時接種中止指示が出される。一部の地域ではPを除いたDT二種混合を用いていたところもある。
昭和50年:接種開始年齢引き上げの形でDPT三種混合ワクチンの接種が再開。しかし副反応を恐れて接種を控えていた地域も多くあり、接種率は高くはない。
昭和56年:新しいDPT三種混合ワクチン製造承認、多くの地域で三種混合接種を再開。
なお平成6~7年以降DPT三種混合ワクチンは義務接種から勧奨接種へと変わっている。生後3ヶ月以上90ヶ月未満にDPT三種混合ワクチンとして4回接種、かつ11~12歳にDT二種混合ワクチンとして1回接種として実施されている。

【関連情報】
 英名Tetanus。感染病原体は破傷風菌(Clostoridium tetani;クロストリジウム属、グラム陽性偏性嫌気性桿菌)。
 神経毒(外毒素テタノスパミン)を放出する。主たる感染源は土壌。土壌中の破傷風菌の芽包(休眠状態に菌が種のように変化したもの)が傷口などから体内に侵入し、発芽して毒素を放出する。潜伏期間は数日~3週間、初期症状は開口障害。そして首部の筋肉のこわばり、顔面の痙攣による痙笑、舌のもつれ、呼吸困難や後弓反張等の全身性痙攣などの症状がみられる。初期症状から全身性痙攣が始まるまでの時間が48時間以内である場合は予後が悪い。また、破傷風の診断は血液検査ではできない。臨床診断に頼らざるを得ないため、開口障害は重要である。発症後の死亡率は約4割。治療は抗毒素投与により行う。
 5類感染症(新感染症法)で規制。



 狂 犬 病 
世界旅必須度:★★★☆☆(独自評価)
主な感染リスク地域:アジア、南米、アフリカ →参考:
接種回数:4週間隔で2回投与、更に、6~12ヶ月後1回投与、計3回
   →参考:添付文書
(WHOでは0、7、28日(緊急時21日)の3回接種法も勧められている)
有効性:2回接種後抗体陽転率100%→6ヶ月後3回接種前は40%→3回目接種2週後は100%。
有効期間:有効性の欄の通り抗体価が低下しやすい。1~2年に1回の追加接種が必要になる。
ワクチンタイプ:不活化ワクチン
他のワクチンとの関連:生ワクチン接種から原則27日以上、他の不活化ワクチン接種から原則6日以上の投与間隔をあける。
接種場所:病院・診療所、検疫所等。

【関連情報】
 英名Rabies。感染病原体は狂犬病ウイルス(rabies virus;ラブドウイルス科リッサウイルス属)。
 イヌだけでなく全ての哺乳類に感染するため、キツネ、グマ、コウモリ、ネコなどの動物に咬まれることでも発症リスクがある。潜伏期は咬傷部位により異なる。すなわち、狂犬病ウイルスが神経細胞を上行して脳に到達すると発症するため、足を咬まれると発症が遅く、顔面を咬まれると早期に発症する。発症すると麻痺、精神錯乱のほか、恐水症状(水を見ると恐れる)が見られる。なお狂犬病ウイルスは消毒薬感受性が高く、咬傷部位をすぐさま消毒し、医療機関で暴露後予防接種を受けることで、発症を回避することができる。発病すれば昏睡や筋硬直、呼吸困難により、数日でほぼ100%が死亡する。
 4類感染症(新感染症法)で規制。



 日 本 脳 炎 
世界旅必須度:★☆☆☆☆(独自評価)接種推奨はされていない。
主な感染リスク地域:アジア →参考:
接種回数:1~4週間の間隔で2回接種、その後おおむね1年を経過した時期1回接種、計3回。
有効性:最初の2回接種で97.6%に抗体産生能が確認、追加接種では100%。
有効期間:4~5年に1回追加接種を行うことが望ましい。
ワクチンタイプ:不活化ワクチン
他のワクチンとの関連:生ワクチン接種から原則27日以上、他の不活化ワクチン接種から原則6日以上の投与間隔をあける。
注意点:「本剤の定期予防接種は、日本脳炎に感染するおそれが高いと認められる者であって特に希望する者に接種すること。本剤の接種に当たっては、本人又は保護者に対して、積極的勧奨の差し控えが勧告されている趣旨並びに予防接種の必要性、副反応、有用性について十分な説明を行い、同意を確実に得た上で、注意して接種すること。」
 参考→厚生労働省:日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨の差し控えについて(概要)
接種場所:接種推奨はされていない。どうしても接種する場合は、病院・診療所、検疫所等にて。

【関連情報】
 英名Japanese encephalitis。感染病原体は日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus;フラビウイルス科フラビウイルス属)。
 ブタが保有・増幅するウイルスで、主にコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)によって媒介されブタ間、またはブタ-ヒト間で感染する。よってブタなどを飼育し、蚊の発生しやすい水田のある地域に多く発生する。通常1週間程度の潜伏期の後、突然高熱を起こし、痙攣、意識障害等の急性脳炎に陥る。有効な抗ウイルス薬がないため、治療は対症療法のみ。致死率は20%程度だが、過半数に脳後遺症を残す。したがって、蚊に刺されない対策は重要である。3主徴候は高熱、頭痛、意識障害、そして髄膜刺激症状。検査はIgM型抗体検出。
 日本脳炎ワクチンは予防接種法一類疾病として定期接種が行われてきたが、ADEM(アデム、急性散在性脳脊髄炎)という日本脳炎ワクチンの夾雑成分によると推測される発熱、頭痛、けいれん、運動障害等の脳神経障害の報告を受け、現在では、海外渡航者などの、接種を希望する者にとどまっている。
 *現行の予防接種状況は以下の通り。
 第1期(生後6か月以上90ヶ月未満+追加免疫おおむね1年後)→勧められない
 第2期(9才以上13才未満)→勧められない
 第3期(14歳以上16歳未満)→廃止
 なお平成17年までは、予防接種は第3期接種(14~15歳)まで行われていたので、有効期限を4~5年とすると、現在高校卒業以上の者は免疫有効期限が切れている。海外渡航などで必要があれば追加免疫をしたほうがよい。
 4類感染症(新感染症法)で規制。
21Mar2007