抗マラリア薬(詳細)


※こちらは詳細をまとめた版です。知りたいものがより探せるのが利点です。
 「長いの嫌~、簡単なのがいいわ!」という人は、≫こちらの簡易版

 序 
アジアやアフリカの熱帯地域を旅する人にとって、関心を持つことから避けられないのが、マラリア。しかし「抗マラリア薬」の詳細は、読んでもピンと来にくいと思います。聞きなれない商品名や成分名の羅列も、ピンと来にくい大きな一因を作っています

今回は、アフリカを旅するあづさが、まずは自分自身のためにと抗マラリア薬について得られる知見をまとめました。そういう全体を見た目をもちながら、最終的には平易に、でも内容を犠牲にせず、旅人にとって薬に立てる喜びを糧に、抗マラリア薬を紹介できるよう努めました。

 ワ ク チ ン に よ る 予 防 は 不 可 
マラリアに感染することで抵抗力をつけるヒトはいますが(immune)、この免疫力の獲得を製剤化したワクチン(予防接種)はいまだ開発段階です。「マラリアにはワクチンがない」ことを覚えておきましょう。

したがって、マラリアを予防するためには、原因となる蚊に喰われないといった基本的なことのほか、“薬物による予防”が現実的な手段となります。

 ど ん な 薬 が あ る の ? 
抗マラリア薬として知られる主なものを、挙げてみます。これらの使用法は大きく「予防」と「治療」に大別されるので、その可否を○×で付記しました。

薬の名前はただでさえ覚えにくいのに、更に一般名(成分名として国際的に通用する)と商品名(各企業が命名)があるから、大変ですね。
一般名[カッコ内は代表的な商品名]予防内服治療スタンバイ治療保険適応
アトバコン・プログアニル合剤
[マラロン]
×
アーテメター・ルメファントリン合剤
[コアルテム、リアメ]
××
キニーネ
[エビス]
×
副作用問題

経口のみ
クロロキン
[ニバキン、アラレン、アブロクロール]

耐性問題
×
クロロキン・プログアニル合剤
[サヴァリン]

耐性問題
×××
スルファドキシン・ピリメタミン合剤
[ファンシダール]
×
副作用問題
ドキシサイクリン
[ビブラマイシン]

キニーネ併用
××
ハロファントリン
[ハロファン]
××
プリマキン×通常×
根治療法○
××
プログアニル
[パルドリン]

クロロキン併用
×
メフロキン
[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]

治療のみ

参考:スタンバイ治療(Emergency stand-by treatment)について
スタンバイ治療とは、マラリアの感染が疑われた場合、できるだけ早く医療機関を受診することを前提に、抗マラリア薬を自己服用する緊急避難的な対処方法のことです。流行地に入ってから10日以上が経過し、マラリアを疑わせる発熱があり、すぐには医療機関を受診するのが不可能な場合に実施するものとされています。

参考:保険適用の可否について
日本では抗マラリア薬は処方せん医薬品です。医師は、無診察処方を行うことはできず(医師法)、薬局は無処方せん調剤(交付、授与を含む)ができないため(薬事法)、まずは医師の診察を受けて、処方せんにより薬局で薬を入手します。。また抗マラリア薬は予防目的の場合は保険がきかず全額自費負担となります。したがって、予防目的で抗マラリア薬を処方してもらうには、全額自費で初診手続きから行われることも頭に入れておきましょう(保険診療と自費診療の併用は原則禁止されているためです)。



 抗 マ ラ リ ア 薬 の 予 防 的 服 用 
まず大事なことを1つ。マラリアの潜伏期は原則7~12日(中には1ヶ月に及ぶものもある)なので、マラリア流行地域滞在が1週間以内で、なおかつその後は迅速に医療を受けられるところにいるのならば、抗マラリア薬の予防服用は必要ありません(むしろ副作用の点から有害無益ともいえます)。また、熱帯地域への渡航であっても都市部では一般にマラリア罹患のリスクが低く、かつ迅速な治療が望めるため、予防服用の必要性は低いでしょう。流行地域かつ郊外へ長期渡航する場合に予防薬が必要となります。

薬により異なりますが、マラリア汚染地域に入る前から服用を開始し、そこを離れた後も、潜伏期における原虫増殖を食い止めるためには流行地域を離れてからもしばらく服薬を継続する必要があります。服用方法も色々な種類があります。

一般名[カッコ内は代表的な商品名]用法用量服用開始服用終了備考
アトバコン・プログアニル合剤
[マラロン]
1日1回1錠渡航1~2日前渡航7日後
アーテメター・ルメファントリン合剤
[コアルテム、リアメ]
治療主体の薬で
予防経験が少ない
キニーネ
[エビス]
予防使用不可
クロロキン
[ニバキン、アラレン、アブロクロール]
300mgを週1回渡航1~2週前渡航4週後アフリカでは
予防効果が低い
クロロキン・プログアニル合剤
[サヴァリン]
毎日1錠渡航1日前渡航4週後アフリカでは
予防効果が低い
スルファドキシン・ピリメタミン合剤
[ファンシダール]
予防使用不可
ドキシサイクリン
[ビブラマイシン]
毎日100mg渡航1~2日前渡航4週後
ハロファントリン
[ハロファン]
プリマキン予防使用不可
プログアニル
[パルドリン]
毎日200mg渡航1~2日前渡航4週後クロロキン併用
メフロキン
[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]
1錠を週1回渡航1~2週前渡航4週後投与は原則
最大12週まで

それぞれの薬物の詳細な点は、このページの下部に添付文書情報を含めた詳細を付記しましたので、そちらをご覧ください。


 抗 マ ラ リ ア 薬 に よ る 治 療 
マラリア発症後に投与される薬物のうちいくつかは「スタンバイ治療(表中ス)」にも用いられます。
一般名[カッコ内は代表的な商品名]用法用量備考
アトバコン・プログアニル合剤
[マラロン]
1日4錠3日間薬剤耐性熱帯熱マラリアに有効。他のマラリアにも可。
アーテメター・ルメファントリン合剤
[コアルテム]
初回4錠8時間後4錠、2日目と3日目に4錠ずつ1日2回耐性マラリアがない。熱帯熱に著効。スタンバイ治療のWHOトップ推奨薬
(類似)アーテメター・ルメファントリン合剤
[リアメ]
0、8、24、36、48、60時間後にそれぞれ4錠コアルテムとほぼ同薬
(類似)ジヒドロアルテミシニン
[コテキシン]
初日2錠、2日目以降1日1錠7日間コアルテムと同系だがアーテスネート単剤で再燃の可能性。他剤で根治を検討。
キニーネ
[エビス]
経口の場合1回0.5gを1日3回3~7日間単独では再燃が多いためドキシサイクリンと併用。重症マラリアの場合は注射用キニーネ[キニマックス]が頻用
クロロキン
[ニバキン、アラレン、アブロクロール]
初回600mg、6、24、48時間後に300mg。または初回600mg、24、48時間後に300mg投与。熱帯熱マラリアが少なからずありときにクロロキン耐性がみられる地域ではプログアニル併用、熱帯熱主流地域では他剤を使用。ドキシサイクリン、ファンシダールと併用不可。
クロロキン・プログアニル合剤
[サヴァリン]
予防薬として使用される
スルファドキシン・ピリメタミン合剤
[ファンシダール]
初日1回2錠、翌日1回1錠。または1日1回3錠のみ。クロロキンと併用不可。熱帯熱や三日熱に有効だが熱帯熱で耐性問題。
ドキシサイクリン
[ビブラマイシン]
1日100~400mg7日間×キニーネと併用。カルシウムとの同時摂取を避ける。
ハロファントリン
[ハロファン]
内服25mg/kgを1日3回に分けるメフロキン、キニーネと併用不可
プリマキン根治療法薬なので通常の治療では考慮しない
プログアニル
[パルドリン]
1日5~10mg/kgを3回に分けるクロロキンと併用でのみ使用
メフロキン
[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]
1日3~4錠(もしくは4~6錠)を2回に分けて服用ハロファン、キニーネとの併用不可。空腹時服用不可

参考:特殊な治療
重症熱帯熱マラリアには注射用キニーネが用いられる。キニーネ10mg/kgを4時間かけて点滴静注し、必要に応じて反復。その後は経口キニーネ[エビス]、スルファドキシン・ピリメタミン合剤[ファンシダール]、メフロキン[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]、ドキシサイクリン[ビブラマイシン]などを追加する。従来より注射用キニーネが標準的であったが、最近ではアルテミシニン誘導体の注射剤や坐剤も用いられ、評価されている。

三日熱マラリアや卵形マラリアの場合、肝臓に潜む休眠原虫を殺滅しないと再燃のおそれがあるため、根治療法としてプリマキンの投与が有効である。



 予 防 と 治 療 、 ど っ ち が 大 事 ? 
この項は、あづさ私感です。抗マラリア薬を予防内服することと、抗マラリア薬によって治療することとどちらが大事かを考えてみました。予防薬にも治療薬にも、効果100%ということはありません。サヴァリンを飲んでいるのにマラリア原虫がクロロキン耐性だったり、メフロキンを飲んでいるのにマラリア原虫がメフロキン耐性だったりするからです。今所持している薬が効くかどうかは、自分に感染するマラリア原虫との組み合わせに依存する、一種の“賭け”となります。

では、「予防薬が効かなかったケース」と、「治療薬が効かなかったケース」で、どちらが命に関わるかを考えてみました。旅行者の立場で言えば、医療水準が高い国の医療機関が多い地域に滞在することはむしろ少ないでしょうから、予防薬も治療薬も、事前に地域性を踏まえて薬局で購入し、持ち運ぶことになります。

もし「予防薬が効かなかった」場合は、マラリアを発症した際に、マラリア治療薬の服用へ踏み切ります。
でももし「治療薬が効かなかった」場合、代替の治療薬を持っていなければ致死的な結果を迎えるでしょう。つまり、治療薬は地域性を考慮して最低2種類の薬を持ち、何が何でもマラリアの進行を食い止める必要があると言えます。

このように、最も大事なことは、致死的結果を迎えないよう治療薬の選択をきちんと考慮することです。予防していても発症する危険は回避できないのだから、予防に頼る以上に、治療薬を真剣に考えましょう。なお治療薬は予防薬と違う種類のものを持ってください。A薬で予防していながらマラリアを発症した場合、治療においてA薬は効かないからです。

そうした下準備をした上でなら、予防薬服用によって発症リスクを下げるのは考慮の価値があるでしょう。その際は、マラリア流行地域への日数を計画立て、それにプラスして5~6週間(マラロンはもっと短くて良い)分の薬物を所持することを念頭に置いてください。

「熱帯熱マラリアに効く薬は他のタイプにも効く」を覚えておくと、薬の選択に役立ちます。

「蚊に喰われない」等の基本事項を割愛し、薬物の観点から言及いたしました。


 医 薬 品 情 報 
各医薬品について、必要になるかもしれない点をまとめてみました。何しろ情報の羅列ですので、知りたいところだけをあさり、辞書のように使っていただくのがよいかと思います。一般名50音順で記載。

■アトバコン・プログアニル合剤[マラロン]
アトバコン250mg/塩酸プログアニル100mg。
薬剤耐性熱帯熱マラリアに対する効果が高いと評判の新しい薬剤であり、クロロキン耐性などの薬剤耐性熱帯熱マラリアにも有効である。熱帯熱マラリア以外のマラリアでも使用可能である。スタンバイ治療可。
1回4錠、1日1回、3日間服用する。乳製品、あるいは食事とともに服用。同じ時間の服用が望ましい。
副作用として腹部症状、咳などがあるが軽微とされている。
予防内服の場合、1日1錠を流行地滞在の1~2日前から流行地を離れて7日後まで服用する。予防効果は90%以上という報告がある。
マラロンの耐性は世界に1、2例しか報告されていない。


■アルテミシニン誘導体[アリネート、コアルテム、リアメ、アラキシン、コテキシン、アルテキン]
ヨモギの近縁植物からアルテミシニンが抽出される。そのアルテミシニンの誘導体のうち、アーテスネート、ジヒドロアルテミシニン、アーテメターなどは、マラリア特効薬として製品化されている。
・アーテスネート[アリネート](桂林製薬)
・アーテメター・ルメファントリン合剤[コアルテム、リアメ](ノバルティス社)
・ジヒドロアルテミシニン[アラキシン、コテキシン](チャーチベルズ社)。
・メフロキン・アーテスネート合剤[アルテキン](メファ社)
耐性原虫がいないので、作用の安定性が評価されている(耐性報告はあるものの例外的である)。中でもWHOはジェネリック医薬品(後発医薬品)であるコアルテムをトップ推奨している(開発費の安いジェネリックだと安価で、普及が現実的だから)。
しかし、マラリア原虫を完全には殺滅できないので、単独使用では再燃が起きる。そのため原虫低下後はメフロキンなどの追加投与が勧められる。その点メフロキン・アーテスネート[アルテキン]は、あらかじめ合剤になっている点で重症な熱帯熱マラリア原虫に特に有効。それ以外にもWHOは従来の抗マラリア薬(キニーネ、クロロキン、ファンシダール等)による治療を、ACT治療(アルテミシニンに基づく混合治療artemisinin-based combination therapy、つまり従来の抗マラリア薬とアルテミシニン誘導体を組み合わせた治療)に換えることを推奨している。
アルテミシニン系の薬は最低でも5日は服用する。[コテキシン](8錠入り)は初日2錠、2日目以降1日1錠7日間。[リアメ]の場合、1回量として4錠を、0、8時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後の計6回投与。グラス一杯の水および食物とともに服用するが、グレープフルーツは禁忌。
アーテメター・ルメファントリン合剤[コアルテム](16錠入り)のように3日で服用が終わるものもある。
以下アーテメター・ルメファントリン合剤[コアルテム]の添付文書より抜粋。
アーテメター20mgとルメファントリン120mgの合剤。薬剤耐性マラリアにも有効。熱帯熱マラリアや熱帯熱を含む混合マラリアに有効、発症24時間以内に服用開始、吸収を良くするためミルクなど脂肪食と共に服用するとよい。服用1時間以内に吐いてしまった場合は再び服用すること。
服用方法:初回4錠8時間後4錠、2日目と3日目に4錠ずつ1日2回
三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリアに対する効果は評価されていない。また休眠型に作用しないためプリマキンによる根治療法も求められる。
主な副作用:過敏症、頭痛、めまい、眠気、動悸、咳、腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、疲れやすい、等。


■キニーネ[エビス]
処方せん医薬品(医師の処方せんが必要)、使用期限3年、保険適用医薬品。
1回0.5gを1日3回、3~7日間経口投与する。
マラリア4種に作用する。近年薬剤耐性熱帯熱マラリアに用いられるようになった。
東南アジアではキニーネ耐性が高頻度にみられ、そのような場合ドキシサイクリン[ビブラマイシン]などの併用が勧められる。
メファキンやファンシダール耐性マラリアには、キニーネとドキシサイクリン[ビブラマイシン]が併用が有効であることが多い。単独治療では再燃が多いためドキシサイクリン[ビブラマイシン]と併用して用いるとも言われる。
重大な副作用:黒水熱(発熱、血尿等を伴う血管内溶血)、黒内障(視神経障害)、血小板減少性紫斑病(あざ、出血傾向)、無顆粒球症、溶血性尿毒症症候群
その他の副作用:過敏症、精神症状(不安、興奮、錯乱等)、聴覚障害、食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、腹痛、肝障害。
服用しにくい薬剤であり、胃腸障害、耳鳴り、めまいなどはよくみられる。
重症マラリアの場合は注射用キニーネ[キニマックス]が頻用される。静注10-25mg/kg。低血糖、QT間隔延長、全身状態改善中に意識レベルが突然低下(→直ちにブドウ糖静注)、抗ビタミンK凝固薬の効力増強、急速吸収・排泄のため6時間最大使用量0.5gまで、黒水熱には禁忌、等に注意。


■クロロキン[ニバキン、アラレン、アブロクロール]
クロロキンは予防にも治療にも使えるがクロロキン耐性マラリア原虫がいる地域が多い。
WHO分類A(熱帯熱マラリアは稀で、あってもクロロキン感受性の地域、中東、中米など)ではクロロキンによる予防は効果がある。WHO分類B(熱帯熱マラリアが少なからずあり、ときにクロロキン耐性)の場合は、クロロキンとプログアニルの2剤併用が好ましい)。したがって、熱帯熱マラリアが主流となるアフリカでは他剤を使用する。
熱帯熱マラリアでは薬剤耐性のために使用価値が殆どなくなったが、他のマラリアでの急性期治療薬としては今でも第一選択薬剤である。ただし、三日熱マラリアで軽度ではあるがクロロキン耐性が出現している(地域によるが最大30%の原虫に耐性がみられる)。クロロキンは三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアでの急性期治療に用いられるが、先のクロロキン耐性原虫の問題も念頭におく。三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアの場合、クロロキンは血液中の原虫を殺滅する。
初回600mg、6時間後、24時間後、48時間後に300mgを投与する。もしくは、1日目600mg、24時間後、48時間後に300mg投与。
副作用として胃腸障害、平衡感覚障害、呼吸抑制、循環不全、ショック、痙攣、ミオパシー、視野欠損、網膜障害。
予防内服の場合は、週1回300mg、マラリア流行地入り1~2週間前から渡航後4週間服用する。


■クロロキン・プログアニル合剤[サヴァリン]
クロロキン耐性熱帯熱マラリアの問題から、南米など三日熱マラリア主流地域では予防の第一選択となりうる。アフリカなど熱帯熱マラリア主流地域では予防使用に適さない(例:コロンビアでは三日熱マラリア55%に対しセネガルでは熱帯熱マラリア98%なので)。WHO分類では、熱帯熱マラリアが多くクロロキン耐性がある地域では、メフロキン[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]を優先し、メフロキンが服用できないなど特殊な場合にクロロキン・プログアニル合剤[サヴァリン]を選択するとしている。
ドキシサイクリン[ビブラマイシン]やアトバコン・プログアニル合剤[マラロン]よりは効果が劣る。
流行地滞在の1週間前から流行地を離れて4週間後まで、1日1錠服用する。


■スルファドキシン・ピリメタミン合剤[ファンシダール]
処方せん医薬品、保険適用医薬品、使用期限3年
1錠中スルファドキシン500mg、ピリメタミン25mg
初日1回2錠、翌日1回1錠を経口投与する。製剤によっては1度に3錠服用するものもある。効力は長く持続する。
特に予防内服でStevens-Jonson症候群、Lyell症候群を稀に合併するため、予防服用は勧められない。
重要な基本的注意
(1) 本剤をマラリアの予防に用いないこと。[本剤をマラリアの予防投与に用いた場合、治療に比べ皮膚粘膜眼症候群等の重篤な副作用発現の危険性が高くなるとの報告がある。]
(2) 血液障害、ショック等を予測するため十分な問診を行うこと。
(3) 投与開始に先立ち、主な副作用について患者に説明し、血液障害(貧血、出血傾向等)、発疹等の皮膚の異常が認められた場合には速やかに主治医に連絡するよう指示すること。
(4) 必要に応じ臨床検査(血液検査、肝機能検査、腎機能検査)を行うこと。
(5) クロロキンとの併用はしないこと。[外国において本剤とクロロキンとの併用により重篤な皮膚症状が報告されている。]
重大な副作用:皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、PIE症候群(好酸球増多を伴う肺浸潤:発熱、咳嗽、喀痰を伴うことが多い)、肝細胞壊死、溶血性貧血、汎血球減少
重大な副作用(類似薬サルファ剤又はピリメタミンで次のような副作用が報告):再生不良性貧血、無顆粒球症、ショック症状(初発症状:不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴、発汗等)、乏尿、無尿を伴う中毒性ネフローゼ、急性腎不全、末梢神経炎、全身性エリテマトーデス、結節性動脈周囲炎、アレルギー性心筋炎
その他の副作用:白血球減少症、血小板減少症、好酸球増多、巨赤芽球性貧血、紫斑、低プロトロンビン血症、メトヘモグロビン血症、多形性紅斑、発疹、蕁麻疹、血清病、そう痒症、眼窩周囲浮腫、結膜及び鞏膜の充血、光線過敏症、悪心、舌炎、口内炎、嘔吐、腹痛、下痢、膵炎、AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇、肝炎、BUN、クレアチニンの上昇、頭痛、うつ状態、痙攣、運動失調、幻覚、耳鳴、眩暈、不眠、感情鈍麻、けん怠感、脱力感、神経過敏、発熱、悪寒、関節痛、
過量投与:食欲不振、嘔吐、痙攣を含む中枢神経系興奮、血液障害(巨赤芽球性貧血、白血球減少、血小板減少)
臨床成績:熱帯熱マラリア100%(5/5例)、三日熱マラリア100%(18/18例)
熱帯熱マラリアではスルファドキシン・ピリメタミン合剤も耐性が進行しつつあり、望ましくない。


■ドキシサイクリン[ビブラマイシン]
処方せん医薬品、保険適用医薬品だがマラリアの場合は保険対象外、使用期限3年
併用注意:カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄剤、ビスマス塩(本剤の吸収が低下し、効果が減弱するおそれがある。)
副作用等発現状況の概要:大部分は悪心・嘔吐、食欲不振等、消化管障害(10.93%)。その他の副作用としては発疹、灼熱感などが報告されている。
重大な副作用:ショック、アナフィラキシー様症状(呼吸困難、血管神経性浮腫等)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)、剥脱性皮膚炎、偽膜性大腸炎、肝炎、肝機能障害、黄疸、
その他の副作用:AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇、食欲不振、悪心・嘔吐、腹痛、下痢、口内炎、舌炎、食道潰瘍、食道炎、嚥下障害、消化不良、腸炎、肛門周囲炎、顆粒球減少、血小板減少、溶血性貧血、好酸球増多、潮紅、低血圧、心膜炎、末梢性浮腫、頻脈、BUN上昇、発疹、発熱、蕁麻疹、光線過敏症(爪甲剥離症を含む)、多形紅斑、関節痛、筋肉痛、頭蓋内圧上昇に伴う症状、ビタミンK欠乏症状、ビタミンB群欠乏症状、全身性エリテマトーデスの悪化、血清病、耳鳴
適用上の注意:服用時、食道に停留し、崩壊すると、まれに食道潰瘍を起こすことがあるので、多めの水で服用させ、特に就寝直前の服用等には注意すること。
その他の注意:ビブラマイシンの吸収は食物やミルクと同時に摂取しても血中濃度の上昇がやや緩徐になりピークが遅れるものの、吸収には影響を受けない。従ってビブラマイシンは食事とともに投与することができる。
熱帯熱マラリア治療に単独ではなくキニーネとの併用で使われる。1日100~400mg、7日間程度用いる。ドキシサイクリンの代用としてテトラサイクリン、ミノサイクリンなども使用される。メフロキンやスルファドキシン・ピリメタミン合剤が効かない耐性マラリアには、キニーネとビブラマイシンが併用される。
予防内服の場合は、流行地域入り1~2日前から渡航後4週間にわたり毎日100mg服用。予防効果は90%以上という報告がある。


■ハロファントリン[ハロファン]
治療時、内服25mg/kgを1日3回に分けて投与する。
下痢、掻痒、一過性GOT上昇。
メフロキンとの交差耐性があり併用不可。予防薬としても用いられない。


■プリマキン
肝細胞内休眠原虫として再燃のもとになる三日熱マラリア、卵形マラリアの(急性期治療の後の)根治療法薬として使用される。1日15mg、14日間投与、2ヶ月後にもう1クール使用が標準である。腹痛、メトヘモグロビン血症のほかに、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PDH)欠損者に使用すると溶血発作(溶血性貧血)を起こす。


■プログアニル[パルドリン]
葉酸拮抗薬。ファンシダール構成薬のピリメタミンと同類薬である。
1日5~10mg/kgを3回に分けて内服する。
熱帯熱マラリアが少なからずあり、ときにクロロキン耐性の場合は、クロロキン[ニバキン、アラレン、アブロクロール]とプログアニルの2剤併用が好ましい(WHO分類B)。
予防内服の場合は、1日200mgを、マラリア流行地入り1~2日前から渡航後4週間服用する。この際クロロキン週1回300mgマラリア流行地入り1~2週間前から渡航後4週間服用と併用する。


■メフロキン[メファキン、エスエス、ヒサミツ、ラリアム]
日本では予防薬処方の主流である。予防効果は90%以上という報告がある。
クロロキン耐性の熱帯熱マラリアが予想される場合に多く使われている。熱帯熱マラリア以外にも有効性はある。ただしメフロキンに耐性のある熱帯熱マラリア原虫が急増しているので注意(特に東南アジア)。
WHOが勧めるマラリア予防薬がメフロキンだが、塩酸メフロキンは精神障害の副作用から自殺、他殺が発生することが指摘され、米国やオーストラリア、国際赤十字では投与が中止されている。メフロキンの精神神経症状は一般的に服用開始後2~3週目にあらわれるので、出発まで余裕がありメフロキンを希望する場合は出発3週間前からの試験内服により安全性確認を行うことが推奨される。初めての服用であれば3週間前から開始することで、副作用のリスクを相当程度軽減することが可能との報告もある。
予防内服の場合、週1回250mgまたは275mg(5mg/kg(成人で通常1錠))内服。通常流行地到着の1週間前から流行地出発後の4週後まで服用する。
処方せん医薬品(保険は治療の一部に限定して適用される)。予防目的使用の場合は保険適用不可。
禁忌:キニーネ過敏症、キニーネ投与中、ハロファントリン投与中、精神病またはその既往。
使用上の注意:医師が必要と判断した場合に投与を考慮する。投与は成人を対象とする。
用法及び用量(1錠275mgとした場合)
治療には、3錠~4錠を2回に分割して経口投与する。
 30kg以上45kg未満:初回2錠、6~8時間後に1錠
 45kg以上:初回2錠、6~8時間後に2錠
メフロキン耐性のマラリア流行地域及び症状によって、塩酸メフロキンとして、4錠~6錠を2~3回に分割して経口投与する。
 30kg以上45kg未満:初回3錠、6~8時間後に1錠
 45kg以上60kg未満:初回3錠、6~8時間後に2錠
 60kg以上:初回3錠、6~8時間後に2錠、さらに6~8時間後に1錠
予防
3/4錠~1錠を、マラリア流行地域到着1週間前より開始し、1週間間隔(同じ曜日)で経口投与する。流行地域を離れた後4週間は経口投与する。なお、流行地域での滞在が短い場合であっても、同様に流行地域を離れた後4週間は経口投与する。
 30kg以上45kg未満:3/4錠
 45kg以上:1錠
空腹時を避けて服用、予防に用いる場合には、副作用に留意し、投与期間は原則として12週間まで。
重要な基本的注意:治療及び予防のための投与に際しては、マラリアに関して専門的知識を有する医師の指導の下で行う。本剤の投与により平衡感覚障害や精神神経障害が発現することがあるので、投与後少なくとも4週間は自動車の運転等危険を伴う操作に従事させず、ジェットコースター等の動きの激しい乗物への乗車も避ける。
併用禁忌:キニーネ及び類似化合物(キニジン、クロロキン(国内未承認)等)
併用注意:アルコール(飲酒)→幻覚、幻聴、妄想、自殺願望等発症の可能性がある。経口腸チフス生ワクチン(国内未承認)→ワクチン効果を減弱させる(本剤初回投与の少なくとも3日前までに接種のこと)、狂犬病ワクチン(HDCV)(国内未承認)→ワクチン効果を減弱させる。(HDCVは、本剤予防投与開始前に皮内投与療法の3回の投与を終了させるために、少なくとも旅行の1ヵ月前に皮内投与療法が開始されなければならない。
適用上の注意:投与時、大量の水をもって服用させる、空腹時を避けて服用させる。
その他の注意:本剤はpH5.5以上で溶解性が低下するため、制酸剤、H2遮断薬、プロトンポンプ阻害剤等の胃内pHを上昇させる薬剤との併用により作用が減弱する。
重大な副作用:スティーブンス・ジョンソン症候群、中毒性表皮壊死症、痙攣、錯乱、幻覚、妄想、肺炎、肝炎、呼吸困難、循環不全、心ブロック、脳症
その他の副作用:精神神経系(めまい、頭痛、抑うつ状態、不安、傾眠、無気力など)、感覚器(視力障害、聴力障害など)、消化器(嘔気、腹部膨満、下痢、便秘、腹痛など)、循環器(不整脈など)、血液(白血球増多、白血球減少、血小板減少など)、過敏症(蕁麻疹など)、肝障害、腎障害、脱毛など。
西アフリカにおける熱帯熱マラリア分離株に対するメフロキンのin vitro感受性試験の結果、東南アジアの原虫はクロロキンよりメフロキンに対して感受性が高かったが、西アフリカの原虫はクロロキンよりメフロキンに対して感受性が低かった。西アフリカではメフロキンは使用されていないにも拘らず、熱帯熱マラリア原虫がメフロキンに耐性を示すことから、メフロキンの西アフリカでの感染例の治療や予防投与に際しては、注意を要することが示唆されている。


 最 後 に 
薬剤師であるあづさも、実は抗マラリア薬について兼ねてより持っている知識はあまりありませんでした。薬剤師国家試験でも医師国家試験でも、マラリアについて重視していないため、学部教育が他を優先させてしまう結果なのです。

現在、抗マラリア薬について、“部分的に”知識をもつ旅人は多いかと思います。ネット検索でも、医師との相談においても、部分的知識ならば得ることができるから。

でもね、それだと、全体が見えない。

それは旅して長らくの、私のストレスでもありました。簡単に言うと、「結局抗マラリア薬のこと、あまり分かってないじゃん、私!!」という状況が続き、そこから脱却したいとアフリカ旅を始めてから悶々としていたのです。ですので、自分が納得するまで、抗マラリア薬について可能な限り調べることにしました。

難解な内容であっても、こういう専門分野では正しい情報は難解ですから、それは仕方がない。マラリア対策が必要である人ほど、必要な部分からじっと見つめてみてください。こういうところは辞書と同じです。内容は覚えきれないほどたくさんでも、必要なとこだけ見るなら、やっぱりちゃんと書いてあるほうが、辞書的なものならばそういうほうがよいものね。

知識は、ないよりはあるほうがいい、何事にだってそう。なのに抗マラリア薬については、私自身あまり知識がなかったのです。恥ずかしいことです。

そんな自分への自戒の意味を込めて、苦しい旅(中央部アフリカ)を抜けたあと、南アフリカ共和国から情報収集をしはじめ、根気良く作成し、そして、コンゴ民主でとりあえずまとめ終わりました。

旅行者の立場として記載したかったので、成人服薬にのみ言及し(小児や妊婦、授乳婦への服用を割愛)、また薬物の薬理作用機序も割愛しました(ホントはこれが一番好き)。

医療の世界は日進月歩ですから、このページもいつまでも未完成ですね。だからこれからも、適宜改筆を続けていこうと思います。

末筆になりますが、私の質問に心温まる回答を下さった日本大使館の医務官の先生に、深謝致します。

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■あづさからの質問と、医師からの回答(対談およびeメールにて。アフリカ限定の話としてお読みください)

●メフロキンは中枢神経系副作用の点から12週間投与制限が設けられるなどされていますが、それでも週1回の服用という点から、症状発現に注意をしていれば、他臓器への影響はむしろ少なく、予防薬としては優秀なのかと思いますが、どうでしょう。

→その通りだと思います。耐性原虫も報告されているようですが、アフリカではまだ少ないようです。12週投与制限についても、実際のところは、注意しながら(12週後に肝機能等も含めて再評価)年単位での服用も可能のようです。半年とか一年とかの服用報告もあります。

→日本の製品では12週制限を原則とされますが、海外製剤では半年や1年使えます。12週ごとの検査は日本大使館の医務官訪問でも(問診等で)まかなえます。。


●サヴァリンはクロロキン/プログアニル合剤で、外務省HPでも南米の記載においては予防として優れていると書かれています。南米のような三日熱マラリア優勢地域なら理解はできますが、アフリカは熱帯熱マラリアが多く(例えばセネガルでは熱帯熱マラリア率98%)、そしてクロロキン耐性原虫は熱帯熱マラリアに多いことを踏まえると、アフリカでのサヴァリン服用は、どこまで服用意義があるのでしょうか。むしろドキシサイクリンやメフロキンなど他剤のほうが予防効果があるのではないかと思いました。

→ご指摘の通りアフリカではほとんど意味がないと思いますが、発症した場合に軽度で押さえられる可能性はあります。予防薬として妊婦(授乳は禁)には適しているようです。


●ドキシサイクリンは重篤な副作用が少ないのが利点ですが、殺マラリア原虫作用はありません(ないですよね?)から、予防薬としてどのくらい優秀なのか、発症リスクをどの程度下げられるのかが疑問です。予防薬にも「これはよく効くよー」から「ま、気休めだけどね」までいろいろあるとしたら、ドキシサイクリンはどの程度のものなのでしょうか?

→日本人は、滞在者、旅行者とも予防内服率が低いようです。今まで、私が関わった日本人で予防内服をしている方については、1人だけマラロン、後は全員メフロキンでした。ただしドキシサイクリン、メフロキン、マラロンとも予防内服の効果は90%以上という報告もあります。

→予防薬としては、1st メフロキン、2nd ドキシサイクリン、3rd マラロンと考えます。米国・仏大使館の医務官もこの優先順位で施行しているようです。


●アフリカで一度マラリアに罹患しコアルテムで治癒しました。次回発症時も同様にコアルテムを服用して大丈夫でしょうか?

→熱帯熱マラリアと推定される地域での治療ならば大丈夫です。熱帯熱マラリアは慢性化しないため。1度目の服用により原虫が耐性化した可能性は排除でき、2度目の発症は1度目とは異なる原虫によるものと考えられるからです。


●先生は、もし旅行者から「マラリアの薬で、予防の薬と治療の薬を持ちたいのですが何がよいですか」と問われたら、西アフリカ中央アフリカあたり限定の旅行ならば、どんなものを紹介し、どのようなアドバイスを付属しますか?

→予防薬:メファキン、治療薬:コアルテム、でしょうか。治療効果からするとコアルテムが飛び抜けているような印象を持っています。

→予防内服については、服用するかどうかも含めて意見の分かれるところです。しかし1人旅の方には予防内服を薦めます。複数人で旅をする場合と違い、マラリアを発症した場合に助けてくれる人がいない、という点がポイントです。なおキットは偽陰性が多いので旅行者には薦めません。

蚊に刺されないように注意、発熱や体調不良時には常にマラリアを念頭に置き、病院にアクセスできない場所では必ずスタンバイ治療の準備を。

15Jul2008