感染性の下痢


下痢は旅人にもよく見られる症候ではありますが、ただ単に“下痢”とひとからげにしてはコワイもの。このページは、「下痢といってもいろいろある」を、日本出発前に簡単にまとめてみた覚書きのようなものであります。

いろいろ書いてしまっていますが、大事なことは、
1)下痢の起因菌にもいろいろある
2)原因が違えば薬も違ってくる
3)それらが暗記されていなくても、“探せばすぐ見つかる”状態にしておく。私たちの場合は、これを持参PC(2台とも)に入れています。

【感染性の下痢の概要、かんたんまとめ】

◆発症
1)急激に発症→細菌性の感染性下痢
2)徐々に発症→原虫性腸炎(アメーバ赤痢とか)

◆1日の下痢回数
10回以上→サルモネラ、腸管病原性大腸菌、カンピロバクター、細菌性赤痢

◆便の様子
1)血便あり
  1−1)鮮血便→腸管出血性大腸菌
  1−2)粘血便→サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ
  1−3)膿血便→細菌性赤痢、アメーバ赤痢
2)水様性便→コレラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、クリプトスポリジウム、毒素原性大腸菌腸炎

◆その他症状
1)微熱→細菌性赤痢、各種大腸菌感染、偽膜性腸炎、MRSA、ウイルス性腸炎、他
2)高熱→腸チフス、パラチフス
3)発熱も腹痛もない→コレラ、毒素原性大腸菌腸炎
4)発熱なし嘔吐あり→ブドウ球菌
5)激しい腹痛→腸炎ビブリオ
6)高熱と腹痛→サルモネラ、カンピロバクター

◆薬物の選択
感染性下痢の第一選択薬は、ニューキノロン
ただし原因菌がカンピロと推定できる場合はマクロライド

ただしニューキノロンと解熱鎮痛薬(NSAIDs)の併用は痙攣の誘発の可能性があるため回避

◆静菌性抗生物質(増殖阻止のみ、殺菌性ではない)
テトラサイクリン、マクロライド

◆殺菌性抗生物質
β−ラクタム、アミノグリコシド、クロラムフェニコール、ニューキノロン

◆注意
グラム陰性菌・陽性菌を可能な限り判断して、薬を選択する
細菌性下痢に通常の下痢止めは不可(ただし医師によっては対症療法も重要と、細菌性下痢でもロペラミドなどの下痢止めを推奨する場合もあり、絶対的な方針では必ずしもない)。


また今回は感染性の下痢に限定して言及していますので、クローン病のような炎症性腸疾患や過敏性腸症候群のような器質的病変を伴わない疾患は割愛しています。こちらもいずれまとめてみようと目論見つつ・・・。
01Dec2007