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世界一美しい海のはずなのに

インドネシア

 二月からインドネシア入国には旅行者でもビザが必要となった。一昨年のバリ島爆弾テロ以降、観光客数は激減している。なのに、なぜ今だろう。しかし、治安が悪かろうが、手続きが面倒になろうが、行くのを止めないリピーターが多いのがインドネシアである。
 そんなリピーターを魅惑する場所の一つが、スラウェシ島北部のマナド周辺だ。特に海は世界的に有名なダイビングスポットで、その美しさは折り紙つき。私はシュノーケリング専門だが、これほど生物の種類が多い海は見たことがない。魚類だけでなく、サンゴは生きていたし、ウミガメやエビ、タコ、ウミウシなどもたくさんいた。
 良い面だけ見れば、ここは世界一の海だと勧めたくなるが、実際には推薦する気にならないほど大きな問題がある。ゴミだ。都市マナドの海岸はゴミだらけで泳げない。沖にあるブナケン島に滞在したが、そこへもマナドからのゴミが流れ着いている。
 ゴミ列を越え沖に出れば海はきれいだが、どうしてもゴミを割って入る気にならない場所が多い。海流の関係で宿の前はゴミがなく、美しい海を存分に楽しめたが、島一番のビーチでもゴミが岸から数メートルにびっしり。そこでは思い切って海に入り、沖に出てからはシュノーケリングを楽しんだが、ゴミ列を越える時に当たるポリ袋が非常に気持ち悪かった。
 島では客から入島料を集め、それを清掃費用に充てているが、海岸を清掃しているのは雇われた人のみ。島民が自ら清掃している姿が見られないどころか、ゴミを海に捨てに来ているのだ。あれではゴミは減らない。

産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年2月5日分

エッセイ