国ってなに?
「今までに何カ国行ったのですか。」
とよく尋ねられる。
「一八八」
と答えるとしばしば
「後何カ国行っていない国があるのですか。世界には国がいくつあるのですか。」
と続く。その時は、
「独立国は残り一四カ国。国の数は色々定義があって…一九〇ちょっと」
と答える事になる。一八八には非独立地域を含んでいる。行った国が増えてきて残りを
聞かれるようになって、独立国だけを数えようと思ったが、独立国の定義が非常に曖昧
であることが判明したのみ。数えるのを諦めた。
そもそも国とは何か、共通認識の定義は存在しない。ならば個人的な認識における定
義を個人的な場に用いることは何の問題のない。最近になってそう考える様になったが、
以前は色々定義を探して書物を見たり人に聞いたりした。
公的な定義では、まず日本政府の承認している国がまず考えられる。それに従えば現在その数一八九、それに日本を足し一九〇が国の数である。ここには朝鮮民主主義共和
国(北朝鮮)と中華民国(台湾)が入っておらず、きわめて政治的な定義である。この
二つは独立国ではないという見方もあるが、それよりも政府承認という定義を考えた場
合気になるのはタイムラグである。例えばユーゴスラビアからマケドニアが独立した時
は承認までに二年かかっている。この事を考えると独立国の定義に日本の承認国を使う
事は個人、特に旅行者には適していない。承認されてなくとも行けばそこに国があるの
だから。
国連の加盟国を考える人も何人かいたが、スイスを始め加盟していない独立国も多い。
ただ国連にはいわゆる植民地を非自治地域としてリストを作っているので、そこから独
立国を考えることができる。その基準でいえば上記一九〇に北朝鮮を加えた一九一が現
在の国の数となる。しかしソ連崩壊前、明らかに非独立国であったウクライナとベラル
ーシが加盟国であった事を考えると国連の基準はかなり怪しいものである。それに国連
加盟なんて日本政府承認よりも独立からのタイムラグは大きい。
旅行者は色々な考え方をしているが、意外に多いのがスコットランドやウェールズを
国として数える人である。これは旅先で会うスコットランド人やウェールズ人が、自ら
の国籍をそう名乗ることが多いからだと思われる。英国の正式名称は「グレートブリテン
と北アイルランド連合王国」で、その略は連合王国である。イングランドは連合王国を構
成している四つの国の一つであり、スコットランド等とは並列されるべきものである。
ところがこの連合王国を日本語ではイギリスと呼び、その英語名はイングランドである
と日本では教育されている。その結果スコットランドがイングランドの一地方だと思っ
ている人が多い。そんなことをスコットランド人に話せば、彼らは、「イングランドとスコットランドは別の国だ。」と怒りを込めて主張して、色々説明することだろう。
私が迷う国はキプロス。地中海の東端に浮かぶキプロス島には実質的には二つの国家
が有る。ギリシャ系住民のキプロス共和国とトルコ系住民の北キプロス・トルコ共和国
である。国際認識としてはキプロス島にはキプロス共和国一つで、北キプロスはトルコ
が占領していることになっている。しかし実際にはトルコは正式な手続きを経てトルコ
系住民を護るために軍を派遣し、その結果北キプロスが分離独立したのであり、その状
態になってから既に四半世紀経っている。形式上はどちらも完全な独立国家であり(こ
のように言い切るのには無理もあるが…)、後は国際認識だけの問題。いまさら一つに
戻る可能性はないと思うのだが、今は私も一つに数えてしまっている。
噂でしか知らないが、イラクのクルド人地区にはクルド人の国があり、トルコからな
ら旅行者も入国でき、クルドの入国スタンプを押してくれるらしい。またソマリアの北
部も実際にはソマリランドという独立国があり、エチオピアからの国境でソマリランド
ビザも取れ入国できるそうだ。このような未公認の国は他にも色々耳にする。恐くて私
は確かめに行く気はしないけど、ジャーナリストでもない無謀な旅行者が行っているら
しい。
まあ、どのように考えても国の定義などできない相談である。国の定義がないのに、国の数が分かるはずなく、訪問国数なんて無意味。そうは分かっていても聞かれれば答えざるを得ないのが難しいところ…。