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紙幣コレクション

ポーランド

 海外旅行で余ったコインを記念に持ち帰る人は多いが、コインは意外に似たり寄ったり。現地でもぞんざいに扱うためか、あとから眺めて思い出す事柄は少なく、どこのコインかさえ思い出せないこともある。溜まるとその重さもやっかいだ。
 一方、コインに比べ紙幣はデザインに工夫を凝らしてあり、あとから眺めて楽しいものが多い。最初はコインを集めていた私も紙幣収集に目覚めてからは、自分への土産は紙幣だけとなり、今では数百枚集まった。
 このコレクションの中で最も気に入っているのが、欧州ポーランドの千ズオチ札と五千ズオチ札である。表面が肖像なのは一般的だが、千ズオチの裏面は太陽系のモデル図、表の人物は十六世紀に地動説を提唱した科学者コペルニクスだ。五千ズオチの裏面は楽譜で、表の人物は十九世紀の作曲家ショパンである。どちらも非常に有名な歴史上の人物だが、少なくとも私はどこの国の人かを知らなかったし、顔だけで人物が特定できる外国人はそう居ないだろう。裏面デザインによって、人物が分かり、彼らがポーランド人だと外国人にも認識できるのだから、この紙幣の意味は大きい。
 ポーランドの見所はアウシュビッツのナチス収容所などが有名だが、ポーランドを訪れて一番印象に残ったのがこの紙幣だった。ところが、一九九五年のデノミで紙幣は平凡なデザインのものに変更された。これは旅行者にとって世界遺産が一つ失われたと同じくらいに残念なことではないだろうか。
 ちなみに日本の紙幣で一番好きなデザインは二千円札だが、現状では目にすることが少なく、これも残念に思う。
掲載画像138kb:上が千ズオチ、下が5千ズオチ


産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年2月19日分

エッセイ