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聖都エルサレム

イスラエル

 聖地とされる場所はどこも旅人には魅力的だが、中でもエルサレムはユダヤ、キリスト、イスラムの三宗教にとって重要な聖地であり、紛争の続く今も三宗教の人々が住んでいる。
 旧市街の中心にキリストが処刑されたゴルゴタの丘があり、十字架を背負わされたキリストが処刑地へ自ら歩いた道は、「苦難の道」と名づけられている。和平合意で観光が比較的容易となった私の訪問時には、世界中のクリスチャンが団体で来ており、聖書片手に記述を確かめつつこの道を歩いていた。
 旧市街のもう一つの丘にあるのが、イスラム教の聖地「岩のドーム」。もともとイスラム教徒はメッカへでなく、ここに向って礼拝をしていたほどで、今でもメッカ、メディナに次ぐイスラムの聖地だ。
 岩のドームの場所が、実は古代イスラエル王国の神殿があった場所である。そこには紀元前の城壁が残っており、ユダヤ教徒は、ここを「嘆きの壁」と称し、重要視。いつ訪れても壁に向って一心不乱に祈る人々の姿がある。
 市民は宗教別の地区に分かれて住んでおり、行き来は非常に少ないが、旅行者は自由で、イスラム教徒地区で買物を楽しんだ後、キリスト教徒地区で酒を飲み、ユダヤ教徒地区で食事することも可能だ。文化の違いを肌で感じることの出来る刺激ある街でもあるのだ。
 しかし、和平の気運が高まっていた訪問時でさえ、イスラエル軍とパレスチナ人の衝突は何度か発生し、死者が出た翌日は半日ストでバスが止まった。
 この和平への道が崩れた今、観光できる雰囲気はなくなってしまったことだろう。


産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年4月1日分

エッセイ