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隠された通貨単位

チャド

 アフリカの中央やや北よりにチャドはある。国土の北半分はサハラ砂漠、アラブとアフリカをつなぐ場所に位置している。
 公用語はフランス語とアラビア語だが、田舎に行くとフランス語はほとんど通じない。砂漠のオアシス・マオの市場では、値段を聞くと近くにいるフランス語を話せる人が代りに数字を答えることが多かった。
 地元民の会話に耳慣れてくると、普通は部族語だが、数字がアラビア語であることが分かった。アラビア語も数字なら分かるが、私が値段を聞いた時に最初にいうアラビア語の数字と最終的にフランス語で返ってくる数字がいつもかけ離れている。しばらくして通貨単位が二種類あることに気づいた。
 この国の通貨単位はセーファーフランで紙幣にもコインにもそれしか書いていないが、アラビア語では単位がリアルで、五セーファーフランが一リアルなのだ。
 マオから首都に向う途中の食堂でのこと。壁にアラビア語のメニューがあるが読めない。何があるかと尋ねたら、冷蔵庫からレバーを出して見せてくれた。値段は四百三十フラン、注文をした。調理の間、アラビア語のメニューを眺めていて、アラビア文字だがちゃんと値段が書いてあるのに気がついた。一番高いものでも二百。あれっと思い、店員にどれがレバーだと聞くと一番上を指さす。見れば八十六。アラビア語メニューだからリアル表示だったのだ。
 このレバーがうまかった。あまりにうまいので、そのアラビア語を覚えたところ、以降どの食堂もメニューの最初にレバーがあるのが分かった。どこで食べてもうまい、これこそチャドの名物だ!


産経新聞連載
「(新)一国一景」
2004年4月15日分

エッセイ