最南端で初日の出
チリ
南米大陸の南端からさらに東南方向に進んだ場所にナバリノ島がある。チリ領のこの島にあるプエルトウイリアムスが、世界最南の町である。ここと外界とを結ぶ唯一の定期交通手段は、チリ南部の都市プンタレーナスから週に一便の飛行機のみ。さいはて好きな私はどうしてもこの地を訪れたく、翌週の帰路便予約さえ取れないまま、この島に飛んだ。
集落に過ぎないとも揶揄される小さな町だが、ここの魅力はほとんど人の手の入っていない島内部へのトレッキング。町を抜け森に入るとすぐに踏み跡も分からなくなるが、枯れ葉の堆積で出来た地面はふかふかで歩きやすい。ビーバーダムがあったり、氷河湖があったり、人の手がほとんど入っていないこの島には本当に美しい大自然があるのだ。
訪問が正月だったので、初日の出を見るために記念の登山をした。道がないので登りには思ったよりも時間がかかり、頂に着いた時にはもう空は白んでいた。すぐに日が昇るかと思ったが、南極に近い高緯度地方なので、太陽の軌道には角度がついており、最初は明るい場所が横にずれるだけ。小一時間待って顔を出した太陽は左斜めに昇っていく。右に昇る北半球とは違うのは頭で分かってはいたが、実際に見ると不思議な違和感があり、南の果てにいるのだなぁと改めて感動する。北にはビーグル海峡を隔てフェゴ島、南のかなたには南氷洋、東西の山には氷河が見える。この三六〇度の大展望は本当に素晴らしく、記憶に残る元日の朝となった。
世界中を旅して体験した出来事や場所をこれから毎週紹介致します。
産経新聞連載
「(新)一国一景」
2003年12月25日分